「小児性愛犯罪」を産みやすい性差別文化もいずれは消えるので絶望しないで【藤森かよこ】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「小児性愛犯罪」を産みやすい性差別文化もいずれは消えるので絶望しないで【藤森かよこ】

馬鹿ブス貧乏な私たちが生きる新世界無秩序の愛と性


「ニッポンに王子様はもういない。愛も性もゼイタク品となった時代をサバイブする、すべての女性が読むべき激辛にして、効果抜群のワクチン本だ。」作家・石田衣良さんが絶賛した藤森かよこ氏の最新刊『馬鹿ブス貧乏な私たちが生きる新世界無秩序の愛と性』が話題だ。著者藤森氏が今回取り上げたのが「小児性愛という性文化」について。実はこのテーマ、メディアではめったに取り上げられることがない。センシティブな問題としてあまりにタブー視しすぎてはいないか。小児性愛犯罪者を産みやすい日本の性文化、その本質に迫る。


 

 ◆『馬鹿ブス貧乏な私たちが生きる新世界無秩序の愛と性』において書けなかったことのふたつめ

 先月発売された拙著新刊『馬鹿ブス貧乏な私たちが生きる新世界無秩序の愛と性』において書かなかったことのひとつは、「聡明で美貌で富裕な人々」の愛と性の様相だったいうことを、私はここで書いた

 もうひとつ新刊拙著で書かなかったことがある。

 それは、小児性愛犯罪者を産みやすい日本の性文化についてである。誰にとっても生きることはたやすいことではないが、日本における女性を取り巻く環境は厳しい。その理由のひとつは、無自覚にも性差別文化に依存している男性が多いことだ。女性をどうしても自分と対等な人格の持ち主と思うことができない男性が多いことだ。それは、女性差別文化が消えていく過程が始まってから、日本ではまだ100年も経過していないのだから、しかたのないことだ。

 小児性愛犯罪というのは、女性差別文化が消える過程において生れやすい現象である。男性に奉仕する存在であることを前提とした伝統的女性観が崩れたことに適応できない男性が、自分に奉仕しない成人女性との交際に不快や恐怖や不安を感じ、自分に脅威を与えない児童を性虐待するのが小児性愛犯罪である。だから、従来の女性差別文化が縮小されれば、小児性愛犯罪の数も少なくなる。それまでには100年ぐらいはかかるかもしれないが。

 女性差別文化や小児性愛犯罪が完全に消えるということはないだろう。なぜならば、そもそもが人間は病みやすい存在であり、ある種の男性たちには、性欲の暴走を止める脳の機能不全が、どうしても残るであろうから。

 一部の小児性愛犯罪者について詳しく書くことは、日本の女性が、日本の男性に対して抱いている嫌悪と軽蔑を一層に募らせるようなことになりかねない。だから、私は、新刊拙著においては、小児性愛については少しだけ言及するにとどめた。

 ちなみに、令和4年(2022年)3月に発表された警察庁生活安全局少年課による報告書『令和3年における少年非行、児童虐待及び子供の性的被害の状況』によると、児童売買春の被害者数は、2020年で1531人である。2021年で1504人である。児童ポルノの被写体となった被害者は、2020年で1320人であり、2021年で1458人である。

 性犯罪は犯罪として摘発された数の10倍くらいは起きているかもしれない。何が自分の身に起きているか理解できない年齢の児童に対する性的虐待は、犯罪として警察が把握した件数の20倍くらいはあるかもしれない。小児性愛犯罪には子どもを持つ人びとばかりでなく、まともな大人はみな気をつけなければならない。

 

■日本は小児性愛犯罪無策大国

 『「小児性愛」という病 −−− それは愛ではない』(ブックマン社、2019)の著者である精神保健福祉士であり社会福祉士の斉藤章佳(さいとうあきよし、1979-)によると、1996年にストックホルムで開催された「第1回児童の商業的性的搾取に反対する世界会議」において、日本は強く非難された。欧州で流通している児童ポルノの約8割が日本製だという理由で。

 この8割という数字に根拠があるのかどうかという問題はさておいて、少なくとも1996年当時には日本の児童ポルノが野放し状態であったことは事実であった(p.108  ※『「小児性愛」という病』参照頁。以下同)。日本人は、良きにつけ悪しきにつけ、性的に実に大らかであるので、うっかりすると国際的に大恥をかいたりする。

 恥と言えば、1980年代から90年代にかけての日本には、東南アジアや東アジアへの性交買いツアーが流行していた。そのツアーには、12歳前後の児童との性交を売り物にするものもあったらしい(p.79)。

 というわけで、児童への性的搾取防止後進国であった日本において、やっと1999年に「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」が成立した。通称「児童ポルノ法」である。2005年には、「児童の売買、児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書」(The Optional Protocol on the Sale of Children, Child Prostitution and Child Pornography)を日本は批准した。

 しかし、10歳前後から10代半ばまでの子どもにしか見えないセックスドール(セックスロボット)は、中国や香港とともに、日本でも製造されている。子どものセックスドールの製造も輸入もイギリスやオーストラリアでは禁止されている。日本の子どものセックスドール工場は、イギリスのBBCによる番組で紹介(?)され、その無神経さにイギリス人の男性司会者は涙を浮かべていたそうだ(p.128)。「日本人は程度が低いな」と嘲笑するのを隠すための涙だったかもしれないが。

 小児性愛そのものは、単なる個人の趣味であるので、黙って心の中に秘めておくのならば問題はない。ただ、小児性愛犯罪者からの聴き取りによると、性犯罪の引き金は児童ポルノであったと述べる事例が多い。だから児童ポルノの所持だけなら問題ないのではないかという説には説得力がない。子ども相手の性犯罪に関しては、いかに厳しくても厳しすぎるということはない。児童ポルノの制作も売買も所持も規制すべきものだ。

 

 日本には、小児性愛犯罪者の再犯防止プログラムを受けさせる制度はないし、再犯防止のための施設もほとんどない。しかし、前述の『「小児性愛」という病』の著者の斉藤章佳が勤務する大森榎本クリニックでは、2006年5月から2019年5月までで、子どもへの性加害経験者117人の治療にあたった。30種類以上の治療プログラムのひとつとして、グループミーティングも実施してきた(p.45)。

 アルコール依存症患者や薬物依存症患者が集まり、体験を語り、依存症から脱け出すことをめざすグループミーティング治療法は、犯罪者の更生にも活用されてきた。DV男性たちのグループミーティングもある。しかし、無力非力な子どもを性的搾取する小児性愛犯罪は性犯罪の中でも最も軽蔑される類のものなので、小児性愛犯罪者は性犯罪者グループ仲間からも軽蔑され排除される。だから、小児性愛犯罪者たちだけのグループミーティングを大森榎本クリニックは企画実践してきた。

 斉藤章佳のリサーチによると、日本における小児性愛犯罪者は、どの世代の男性にも幅広く存在している。逮捕時の年齢は20代から40代が多い。最少年齢は17歳で、最高年齢は62歳である。平均年齢は36歳。小児性愛犯罪は再犯率が非常に高い(p.45-51)。

 彼らは10代前半で自分の性的嗜好に気がつき、その嗜好を満たせるような職業に就く傾向が多い。教師、学校職員、学童クラブのスタッフ、保育士、塾講師、スポーツインストラクター、ボーイスカウトやガールスカウトのスタッフなどである(p.134)。

 小児性愛犯罪者の認知はひどく歪んでいる。相手は自分の意志を示すこともできない幼児なのに、その幼児と自分との間には「純愛」があったと言い張る。それを理解できない世間が、自分と幼児の間を引き裂いたと言い張る。さらに子どもが自分を誘ったのだと言い張る(p.12-22)。

 彼らは、「子どもを見ると吸い寄せられるようについて行ってしまう」と語り、子どもが磁石で自分は砂鉄だと思っている(p.78)。子どもを見ると頭が真っ白になり、子どもに接近してしまい触ってしまうと言う。自分の意志ではなく、子どもが自分を誘うのだと思っている。

 この認知の歪みこそが病気の証左だ。性的同意年齢に達していない人間と性交する小児性愛犯罪者は「小児性愛障害」(Pedophilia Disorder)という病気だと、「ICD-10国際疾病分類」や「DSM-V精神疾患の分類と診断の手引き」が定めている(p.58)。

 Wikipediaによると、性的同意年齢は、国家・州ごとに大きな幅がある。ヨーロッパでは、オーストリアとドイツとハンガリーとイタリアとポルトガルが14歳である。ギリシアとポーランドとスウェーデンとフランスが15歳。ベルギーとオランダとスペインとロシアとイギリスが16歳。キプロスが17歳。アメリカ合衆国は州ごとに違い、カリフォルニア州では未成年の18歳以下との性交は違法である。メキシコでは、なぜか12歳。

 メキシコのような事例もあるが、先進国のような顔をしつつ、性的同意年齢を13歳以上にしてきた日本は、世界基準から見れば、かなり異常だ。小児性愛者にとっては天国と言えるかもしれない。しかし、そんな日本もやっと性交同意年齢を16歳に引き上げることが法制化される見込みとなった

 小児性愛犯罪を防ぐために、アメリカでは「メ―ガン法」(Megan’s Law )が1994年に施行され、小児性愛犯罪者の現住所や犯罪歴を広く公開して、インターネットで検索できるようになっている。アメリカの複数の州や韓国では、性犯罪前科者にはGPS端末を装着させ、彼らの位置情報を常に把握している(p.186-187)。

 日本では、加害者の人権のみが重要視されるので、小児性愛凶悪犯罪者にも司法は甘い。そもそも性犯罪一般について甘い日本の姿勢の背後には、何か表沙汰にできない事情があるのだろうか?

 政府の小児性愛犯罪への対処の遅れにつきあってはいられないので、地方自治体によっては独自の取り組みをしている。大阪府では「大阪府子どもを性犯罪から守る条例」を2012年に施行した。福岡県は「福岡県における性暴力を根絶し、性被害から県民等を守るための条例」を2019年に施行した。新潟県は性犯罪前科者にGPS端末を装着して監視するシステムの導入についての検討を求める意見書を国に提出している(p.187-188)。おそらく、性犯罪者の人権がどうのとか、プライバシーがどうのと言い張る政党や国会議員のせいで、新潟県の意見書は無視されるかもしれないが。

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藤森 かよこ

ふじもり かよこ

1953年愛知県名古屋市生まれ。南山大学大学院文学研究科英米文学専攻博士課程満期退学。福山市立大学名誉教授で元桃山学院大学教授。元祖リバータリアン(超個人主義的自由主義)である、アメリカの国民的作家であり思想家のアイン・ランド研究の第一人者。アイン・ランドの大ベストセラー『水源』、『利己主義という気概』を翻訳刊行した。物事や現象の本質、または人間性の本質を鋭く突き、「孤独な人間がそれでも生きていくこと」への愛にあふれた直言が人気を呼んでいる。

 

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